ヒバ・アブー・ナダー
ヒバ・アブー・ナダーはガザの作家。1991年6月24日生まれ。2017年に初の著作“Oxygen is not for the Dead”が出版された。2023年10月20日の夕方、ハーン・ユーニスのアル=マナーラ地区の自宅で爆撃を受け、家族と共に殉教した。
私たちは平凡なことを考えて眠りにつく、大学の試験のこと、新しい服を買うこと、仕事へ応募することに対する不安、そして突然、警報音が変わる。試験は中止になり、学校や大学は閉鎖され、あちこちで爆発が起こり、テレビのアル=ジャジーラの画面は真っ赤になり、ラジオをつけて、スマホのテレグラムを開く。私たちは心の中で全ての予定を再調整し始める。ガザでは、全てが一瞬で変わってしまう。
私たちのニュースフィードは葬儀場/葬儀/訃報欄。ページを移動するのは、まるでお葬式が所狭しと並んだ広場を通り抜けるかのよう。神様、ここ2日間の重苦しさといったら。
アメリカはシオニスト国家を援護するために空母を送ってくるという。いいでしょう、インシャーアッラー、私たちが解放されたらそれを海上レストランにしてしまおう。
あの一斉射撃はどこからくるのか?
私たちの心から。それぞれがガザ人の激しい苦痛からのぼってくるものです。
前回までの戦争では、シオニストの攻撃対象にはある種のパターンがあって、ある時は人々、ある時はモスク、ある時は大通り、またある時は国境エリアか街の中心部、別の時には高層ビルなど、爆撃計画のようなものを把握することができた。爆撃下にある時には、ターゲットと軌道を推測し、またこの戦争があとどのくらい続くのか予期することができた。
今回の戦争にはパターンはまるで無く、全ては爆撃されて、今までの戦争を全部詰め込んだよう、ガザの北から南まで無秩序で壊滅的なやり方で、大量虐殺し、全てを無駄に暗殺している。しかし私たちの忍耐力と神への忠誠心が、戦闘機を見て泣く前に心を落ち着かせ、あるいは落ち着いてから泣いてこう言わせるのです、おお神よ、あなたしかいない、と。
10月9日 午後6時39分
親愛なる皆さんへ
可能な限り短い期間で都市を消し去るために世界から隔絶され、ガザの内外の誰とも連絡が取れなくなってしまう段階に入っています。夜の帳はまだ落ちていないのに、砲弾が地獄のように降り注ぐ。その時まで、祈りの洪水で私たちを満たして、そして私たちの代わりに忍耐と自由のメッセージを、たったひと言だけでもいいので送って下さい。私たちはガザとその中にあるもののすべてを全能で守護者である神に委ねます。
10月10日 午前9時29分
一日の始まりに、自分たちがまだ生きていることを確認したあと、通りや近隣も含め、誰がまだここにいて、誰が柩になったのか、お互いに数え始める。町全体が殉教した。
10月10日 午後20時56分
[ヒバは一篇の長編詩を発表した。これはその一部である]
私はあなたを守ります
あなたが傷つくことから
あなたが苦しむことから
繰り返されるべき7つの節によって
オレンジの味をリンから守った
そして雲の色を煙から守った
私はあなたを守ります
愛して死んだ二人が笑うとき
粉塵は払われるだろう
10月11日 午前11時09分
ガザはこの抑圧に対して、できる限りのことをした。想像を絶し、可能と不可能の限界を超え、あらゆる像や禁止事項を打ち破り、歴史の中で教えられ、ガザに帰する不屈の精神を生み出した。嘘が暴かれるとき、偽善的な政治家は見放され、壊れやすい人類は自ら崩壊する。ガザは、都市、文明、軍隊が預言者たちと奇跡の時代にのみ成し遂げられる、不可解で不可能な世界記録として残るだろう。
私たちは、国家とこの世界で抑圧されている全ての人たちを代表して、権利を取り戻し、戦い、耐えるために、やるべきことはやってきた。だから、後悔したり悲しんだりすることは何もない。神の前でも自分自身の前でも、私たちは正当な権利を持った人間である。この契約における私たちの義務は、耐えて努力することであり、他の全ては神に委ねられており、彼に信仰を持ち、彼を信頼している。もし私たちが滅びたら、それは名誉の勲章であり、もし生き残ったら、その物語を語り、全世界の人たちに私たちの物語を届けよう。両者の間には儀式がある。涙、忍耐、悲しみ、記憶、希望、そして絶望だ。
そして、もし私たちが死んだら、ここには、旅や愛や人生などを夢見た人たちがいたことを代表して言おう。
私たちの上で、たくさんの飛行機が飛んでいる。そして、神はそれらの飛行機よりも、彼らよりも高い。
10月12日 午後2時30分
家系図は個人も枝も含めすべてが倒れた。悲劇的な形で全員が倒れ、ガザはアラブ連盟の玄関先から国連の演壇まで続く開かれた墓場と化した。そして私たちは自分の墓を静かに、重々しく、神への服従をもってじっと見つめる。
10月13日 午後12時15分
今日は金曜日。一週間も経っていない、それは何十人もの殉教者と負傷者に分けられる長い一日であり、私たちは何を待っているのか分からずにいる。
10月13日 午後8時13分
私たちは一瞬一瞬を生き延びている、SNSでいいねをつける瞬間、アラームを消す瞬間、息子を呼ぶ瞬間、そして返事が返ってこないかもしれないのだ、死は想像よりもはるかに速い。
10月15日 午後5時19分
私たちが聞く音、それは私たちの上空を通り過ぎて別の誰かを選んだ死の音。私たちはまだ生きていて、知り合いが死ぬのを聞き、私たちは言う : 神よ、感謝します、彼らが最後に聞いたのがミサイルの音でなくて良かった。ミサイルの音を聞いた者たちは生き残ったということ。追ってお知らせするまで私たちは生きています。
10月15日 午後8時47分
私たちは上空に第二の都市を建設している。医者は患者や血に悩まされず、教授は混雑した教室で叫ぶ必要がなくて、新しい家族には痛みや悲しみは無い。ジャーナリストは楽園の写真を撮っていて、そして詩人は永遠の愛について書いている。彼らは全員がガザ出身だ。天国、すなわち新しいガザ――占領されていない――が生まれてくる。
10月17日 午前11時46日
子どもたちが死んだ、まだ名前も使っていないのに!
10月18日 午後8時58分
私たちの家族写真、手足の入った袋、灰の山、隣同士に並んださまざまなサイズの死衣に包まれた5人の遺体。
ガザの家族写真には色々な形があるが、彼らは一緒で、彼らは一緒だったし、一緒に旅立っていった。
10月18日 午後9時17分
私たちが死ぬのなら、自発的で断固としていて、そして正当な要求をしていた人たちだったと伝えて。
10月19日 午後1時10分
友達のリストが短くなってきて、小さな棺桶があちらこちらに散らばっている。ミサイル攻撃の後には連絡がつかなくて、まるで彼らが飛んで行ってしまったかのよう。もう二度と彼らを取り戻せないし、追悼することも泣くこともできなくて、どうしたらいいか分からない。毎日どんどんリストが短くなっていく。これらはただの名前なんかじゃない。これらは私たちで顔が違うだけ、違う名前なだけ。
おお神よ、どうしたらいいのですか、ああ神さま、この大規模な死の晩餐を前にして。
ここには彼らを復活させるアイコンはない、もし復活なんて嘘だとしても。
10月19日 午後1時47分
[ヒバは友人であるマルヤム・サミール・ヒジャージーの殉教についての知らせを発表した。彼女は以下のように書いた]
マルヤムは疲弊から解放され、永遠の安らぎを得た。ごめんね、マルヤム、いつも意見が合わなくって私たち、本当にごめん......。
10月19日 午後9時20分
ガザのアッ=ザフラー地区全体が脅威に晒されている。今まさに24の高層マンションが爆撃を受けていて、町全体が殉教している、建物ごとに、ああ神様、神様!
10月20日 午後4時25分
私たちは神様と共にガザにいる。殉教する人もいれば解放の目撃者となる人もいて、全員がどこに行くことになるのかを待っている。ああ神様、私たちは皆、あなたの真実の約束を待っています。
2023年10月20日の夕方、ヒバ・アブー・ナダーはハーン・ユーニスのアル=マナーラ地区の自宅で爆撃を受け、家族と共に殉教した。